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大企業で「入社後5年で課長」は可能か?

2023.02.25 その他

先日とある大企業で「最短入社5年で課長級に昇格可能な人事制度を導入する」というニュースがありました。他の企業でも「20代で年収1,000万円に到達することが可能な人事制度を導入する」というところもあり、大企業でも年功序列を脱却しようという趣旨で、成果主義的な人事制度を導入する動きが徐々に出てきています。では果たして本当にこれらの人事制度が正しく機能するかと言えば、個人的には難しいのではないかと思います。それは「抜擢する側」「抜擢される側」それぞれに問題点があるのではないかと思うからです。

「抜擢する側」の問題点としては、「抜擢される人を上手に守らないと、他の社員から潰されてしまう可能性が高い」という点が一番大きいと思います。抜擢された人に対しては、他の社員からよくも悪くも注目が集まることになりますが、例えばオーナー社長などの絶対的な地位の人・社内である程度権力があって声が大きい人が、抜擢した人を守り抜くなどの方策を取らない限り、上と下からの嫉妬ややっかみにより抜擢された人が潰されてしまう可能性が高いと思います。特にこの手の飛び抜けて優秀な人は、よくも悪くも尖っているため社内に敵を作りやすい傾向にある上、ビジネスを成功させるためにリスクを果敢に取りに行って失敗し、それを契機に今までよく思っていなかった人たちから総攻撃を食らう、という絵が想像されます。そうなった時に抜擢された人を守れる実力と権力を備えた人がいなければ、抜擢された人が潰されて再起不能になるということになりますので、抜擢された人を上手に守る仕組みが必要になります(と言っても結局は属人的に守れる人がいるかいないかという話になると思うのですが)。

「抜擢される側」の問題点としては、「このような人事制度の対象になる飛び抜けて優秀な人材は、その会社に甘んじることなく、より高いステージへ飛び立っていく」という点です。従来の日本の価値観では「大企業で出世する」ということがキャリアの最上位にありましたが、最近では価値観がより多様化し、「独立」「スタートアップ」「外資コンサル・金融」など、うまく行けば若くして大企業で出世する以上のお金が得られる、もしくは「会社を上場させた」というステータスとスキルが得られる選択肢が存在するため、それこそ「最年少で課長に昇進」のような肩書を踏み台にして、より高いステージへ飛び立っていく可能性が高いと思います。そしてそもそもそのような飛び抜けて優秀な層は、大企業が自分の間尺に合わないことを早期に悟り、大企業を就職先として選ばないような気もします。従って仮にこれらの制度に魅力を感じて飛び抜けて優秀な人材が入社したとしても、その人が実際にこれらの制度の適用を受けて早く出世し、その後も会社に残って長期的に活躍してくれる可能性は極めて低いと思われるため、結果的にあまり会社のためにならないのではないかと思います。

以上見てきたように、成果主義的な評価制度と大企業の年功序列の社風はすこぶる相性が悪いので、もし私が大企業の経営者だったら、成果主義的な評価制度は導入しないと思います。成果主義的な評価制度に魅力を感じる野心的な人材は、大企業の価値観とは相いれないと思うからです。たまに大企業の新卒採用で「〇〇社っぽくない人材求む!」のような謳い文句がありますが、「〇〇社っぽくない人は採っても辞めると思うんだけど…」と思ってしまうのと似ているかもしれません。むしろ安定的に長く働きたい人に対して厚く報いる人事制度設計にし、中途で野心的だったものの競争に負けて夢破れたような少し型破りな人を採用して、プロパー社員が持っていない経験やスキルを社内に取り入れつつ、プロパー社員の危機感を煽るぐらいでいいのではないかと思います。そのため、大企業の経営者がどのような考えで成果主義的な評価制度を導入しようと思っていて、上記のような課題に対してどのような打ち手を取ろうとしているのかは非常に興味があります。成果主義的な評価制度は優秀層に向けたポーズで、実際は適用する気はあまりない、というのであればそれはそれで理解しますが、「この評価制度の導入でイノベーションが実現されるんだ!」と無邪気に考えている経営者がいるとすれば、その人とはあまり友達になれないかもな…と思います。