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女性役員比率30%以上

2023.06.30 その他

政府から「2030年までに東証プライム市場に上場する企業の女性役員の比率を30%以上にする」という方針が打ち出されました。色々と突っ込みどころは満載ですが、個人的に一番問題だと思っているのは、「社外役員偏重の流れがさらに加速する」という点です。既に複数の企業で女性著名人が社外取締役に就任したニュースが出ていますが、恐らく常勤の役員だけで女性30%というのは難しいため、今後ますます女性の社外役員が増加する傾向になると思われます。これまでも2021年に「企業のガバナンス強化」の観点から社外役員確保が義務付けられてから、社外役員は増加傾向で推移していますが、今回の女性役員の話でその傾向はさらに加速していくでしょう。

社外役員が増えると何が問題かというと、極端な言い方をすれば「当事者意識のない役員が増える」ということです。私も社外役員をやっていまして、もちろんできるだけ当事者意識を持って自分事で考えた上で、その会社に提言をしようと心掛けてはいますが、果たしてその会社の常勤の役員の方々と比較して、同等もしくはそれ以上の当事者意識を持てているかと言われれば、全く自信はありません。社外役員は少数であれば役員会に緊張感を持たせるという意味でもいいと思うのですが、正直に言ってそれ以上の意味はさほどなく、むしろ当事者意識のない意見が多く出てきて議論を拡散させるマイナスの効果をもたらす可能性もあるのではないかと思います。加えて常勤の役員の方々の多くは数十年会社でその事業に携わってきていますので、会社の事業や属する業界については我々外部専門家と比べ物にならないほど精通しており、例えば制度面の話などであればともかく、事業面の話で複数の外部専門家が、その精通しているプロたちを相手に、違った角度からそれぞれバリューを出すというイメージがあまり持てません。さらに言うと、社外役員の登用により役員の椅子が減れば、役員を目指して日々業務を行っている部長以下の人たちのモチベーションダウンにも繋がる恐れがあり、その観点からも社外役員の増加というのはあまりいい傾向ではないのではないかと思います。

話が少し脱線しますが、私は以前から「企業ガバナンス強化のための社外役員確保」という話はあまり好きではなく、というのはこの話は「常勤役員だけだと悪いことをする可能性があるから、外部の目を入れて監視しなければならない」という「性悪説」の発想から来るものであり、上場企業の役員になった方々にこのレベルの話をするのは非常に失礼だという思いがあります。上場企業の役員ともなれば、「悪いことをする」というレベルの低い話ではなく、事業のさらなる拡大に邁進することに一生懸命で、悪いことをするということは頭の片隅にもない、というレベルの人格を備えていて然るべきである、と個人的には思っているのですが、先程「反対」ではなく「好きではない」と書いたのは、理想はそうであっても実際には上場企業で相次いで不祥事が起きていますので、なかなか現実的には難しいよね…という思いもあるためです。

話を戻しますと、今まで述べてきた理由により社外役員を少数入れるのは仕方ないにしても、「女性の登用」という名目で、(意図的かどうかはわかりませんが)社外役員増加に拍車を掛けるのはいただけないのではないか、ということです。また数字を扱う職業の人間として、「数字の使い方を間違えるとこんなにも方向性をミスリードしてしまうんだな…」ということを痛感し、数字の力と怖さを再認識した次第です。