ブログ

M&Aの失敗はPMIのせい?

2023.07.29 M&A

今週あるお客様にPMI関連の研修を行いまして、改めてPMIのことについて考える機会がありましたので、今日はPMIについて思うところを述べてみたいと思います。題名の質問に関してですが、私の個人的な答えは「No」で、M&Aの失敗は高値掴みや社風・価値観の不一致、シナジーの見込み違いなど、9割方PMI前の問題に起因し、PMIが原因で失敗することは1割もないと思います。「M&Aの失敗がPMIのせいである」と思われるのは、「M&Aの失敗が確定する(のれんの減損など)時の責任者がPMIの責任者の場合が多く、タイミング的のその人のせいにされるから」で、確かに「PMI【も】重要」ではあるのですが、それよりも統合する会社の社風や価値観を見極め、実現できる確実なシナジーを見定め、適正な株価を算出して高値掴みしないことの方がはるかに重要だと思います。

従って、高値掴みをした場合PMIの前にほぼ負けが決定してしまうわけなのですが、高値掴みが頻繁に起こる大きな理由の一つに、「ディール成立までの責任者と、ディール成立後の責任者が異なることが多い」という点が挙げられるかと思います。すなわち「ディール成立までの責任者」の目的は「ディール成立」であるため、多少値段が高くても根拠が薄いシナジーを積み増して価格に正当性を持たせてディールを成立させるインセンティブが働きますし、DDで企業価値を毀損するような事項が発見されたとしても、多少のことであればそこに目をつぶってディールを成立させるインセンティブが働きます。特にM&A専門の部署やチームがある企業においては、彼らはM&A案件が成立しなければある意味「仕事をしていない」と見なされるわけなので、その傾向がさらに強まります。そうして根拠の薄いシナジーに基づいて算出された高い株価を、「じゃあ、頑張って実現させてください!」と丸投げされるのはディール成立後、すなわちPMIの責任者となるため、結果としてPMIの責任者が割を食う形となることが多いように思います。

この例などは典型的ですが、日本の大企業は機能別に分かれた組織がそれぞれの部分最適を追求するあまり、全体最適がないがしろになってしまうことがあり、このことが結果的に企業価値を毀損する要因の一つとなっているような気がします。オーナー企業の場合は、オーナーがまともであれば会社の全体最適を踏まえて最終の意思決定を行うはずですが、サラリーマン企業で合議制で全体最適を諮るとなると、どうしても意思決定に政治的なものが見え隠れしてしまい、純粋に企業として正かどうかというところ以外の要素での意思決定が行われることも少なくないのではないかと推察します。高度経済成長期においては、決まった答えをどれだけ効率的に反復できるかが勝負の分かれ目だったため、学生の教育制度から筋金入りで鍛えられた機能別の官僚制組織は日本企業の大きな強みとなっていましたが、決まっていない答えを探すことが勝負の分かれ目となる現代においては、融通が利かない官僚制組織のデメリットが目立つ結果となっている印象です。

多少話が脱線してしまいましたが、個人的な意見としては「M&Aの失敗はPMIのせいではなく、9割方クロージングが終わった段階で失敗が確定していて、それが明確になるのがPMIフェーズであるだけ」ということです。従って「PMIが大事だ!」と言ってコンサルにPMIを依頼する時、法的・会計的なものなどの手続きが膨大にあってその手伝いをしてもらうというのであれば話は別ですが、「シナジー効果の発現」のような本質的なところを期待して依頼するのであれば、それはまさに形式だけを整える「仏作って魂入れず」のような状態になる可能性が高いため、辞めた方がいいと思います。そもそもPMIに限らず、M&Aの手続き自体が本質的ではない枝葉の部分で複雑化してきているため、「そりゃ本質的なところを考える時間がなくなって失敗するよな…」と思うのですが、その辺りはまた別の機会に述べたいと思います。