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中堅中小企業のPMIにおける課題

2022.10.27 2023.02.15 M&A

私がこれまで携わってきたM&A案件の中には、売り手・買い手とも大企業から中堅中小企業まで様々なものがありましたが、特に中堅中小企業を買収した後のPMI(Post Merger Integretion=M&A後の統合プロセス)については、非常に大きな課題があると思っています。それは、①業務が属人化しているため、買い手がスムーズに引き継ぐことが難しい、②売り手となった中堅中小企業をマネジメントできる人材の不足、です。それぞれについてもう少し詳しく説明します。

①業務が属人化しているため、買い手がスムーズに引き継ぐことが難しい
中堅中小企業の業務は、大企業と比較して標準化されておらず属人化している傾向があり、業務のノウハウ等が形式知化されておらず、買い手がスムーズに引き継ぐことが難しい場合が多いです。M&A実行後にキーマンが全員残り、現行の体制がそのまま維持できればいいのですが、得てして前社長(オーナー)とキーマンの間に非常に情緒的な結びつきがあり、「社長がいなくなるのであればこの会社にいる意味はない」ということでキーマンが離職するような事態になった場合には、買い手はただでさえ高いお金を払って、高い目標を設定して困難な投資回収に挑もうとしているところ、さらに投資回収が困難になる可能性が高くなります。

②売り手となった中堅中小企業をマネジメントできる人材の不足
以前のブログで「大企業と中堅中小企業のマネジメントには求められるものが違い、大企業では調整力・専門性が必要だが、中堅中小企業では現場力・総合性が必要だ」という話をしましたが、この観点で考えると、例えば大企業が中堅中小企業をM&Aした後、大企業の部長層が買収した子会社の社長として就任した場合に、果たして有機的に中堅中小企業をマネジメントできるのか、という疑問があります。これは①の課題とも関係していて、業務が属人化しているため社内の形式知が少なく、論理的なマネジメントが難しいというところもあると思います。共通認識された形式知が少ないということは、一般化した抽象的な話では方向性がずれる可能性が高くなるため、個別具体的な現場寄りの話をしていく必要があり、場合によってはマネジメント層であっても細かい業務知識までを要求される可能性があります。同業のM&Aであればともかく、多角化を目指した異業種のM&Aの場合、買い手がある程度の業務知識を備えたマネジメント人材を揃えるのは至難の業だと思います。

では上記の課題を踏まえて何が言いたいかというと、一つは「この課題を踏まえてM&Aの準備をしましょう」ということです。売り手であれば買い手にスムーズに引き継ぎができるように、業務や顧客を個人から切り離し、業務の標準化・形式知化・効率化を図ることが重要ですし、買い手であればM&Aを行った後に誰を社長として行かせ、どのような経営体制にするのかということをM&Aの検討段階から準備しておくことが重要であると思います。
そしてもう一つは、「果たしてM&Aは売り手の長期的な将来像を考えた時に最適な手段なのか?」ということです。オーナー個人から見ればM&AでEXITすることは利益の最大化に繋がると思いますが、その後存続する会社のことを長期的に考えた場合、M&A後買い手への引き継ぎがうまく行かずに企業価値が大きく毀損してしまう可能性があるとすると、M&Aより将来的な企業価値を大きくできる手段をご検討いただくことが必要ではないかと思います。

弊社は「後継者の人材紹介サービス」を行っており、後継者不在に悩む企業に「後継者を社外から連れてくる」という選択肢を提案しております。本サービスがすべての企業にとって最適解であるとは全く思っていませんが、M&Aと違って「後継者をオーナーが選べる」という点が、将来的な企業価値向上に繋がるのではないかと思います。ぜひ事業承継の一つの選択肢としてご一考いただければ幸いです。