弊社ではお客様を初めて訪問する際に、直近数期のBS・PL等を参考にしながら経営課題の仮説を立て、討議用資料に盛り込むことにしています。お客様からは「まだ会ったことのない状態でここまで準備してくれてありがとう!」と感謝されることもたまにありますが、仮説を立てて仕事を進めることは、単にお客様に喜んでもらえる以上の効能が間違いなくあると思っていて、それは、①仕事の成果が出やすい、②仕事の内容・プロセスを言語化できる、の二点です。それぞれについてもう少し詳しく説明します。
①仕事の成果が出やすい
言うまでもないことですが、仕事を進めるにあたって無邪気に流れに身を任せるのと、「これがこうなったらこうして、その時にはこれが問題になりそうだからこうやって対処して…」とあらかじめ予想しておくのとではどちらか成果が出やすいかは一目瞭然です。営業マンがお客様から「ちょっと相談があるんだけど…」と言って呼ばれた時に、「相談があるらしいからとりあえず聞きに行こう!」という営業マンより、「相談って何だろう?そう言えばこの前新しい物流センターを作るみたいなことを言ってたような気がするから、前回の物流センター建築時の提案内容をまとめていくか!」という営業マンの方が間違いなく信頼されるのではないかと思います。
さらに言うと、あらかじめ仮説を立てておくと「自分の持っていきたい方向性に仕事を持っていく」ことができます。例えば私が人材紹介をする時、今までやってきた仕事に近い営業・経理・経営企画などの職種の人材の目利きには自信がありますが、製造・生産管理などの今までやっていない仕事の目利きは相対的に自信がありません。そこで経営課題の仮説として営業面や管理面の課題を示すことで、その課題をお客様が認識し、自分の目利きに自信がある職種の人材ニーズを引き出すことができれば、より成果が出る確率が高まると思われます。
②仕事の内容・プロセスを言語化できる
個人的には①よりもこちらの効能がより重要だと思っていて、「仮説を立てる」という行為は「自分の頭の中で思っていることを言語化する」ということですので、この行為を繰り返すことにより、仮説の精度が高まるとともに自分の仕事の内容・プロセスを言語化することができ、このことがひいては自分の仕事の標準化や、仕事の成功要因・失敗要因の客観的な分析、仕事の成果の再現性の担保に繋がるのではないかと思います。
例えば弊社の場合、経営課題の仮説のアプローチを開始した当初は仮説を立てるのに時間が掛かっていましたが、色々な会社の経営課題の仮説を立てる経験を積み重ねた結果、現在ではある程度中堅中小企業が抱えているであろう課題を類型化することができ、仮説を立てる精度とスピードが格段に上がりました。また、「この仮説は当たっていることが多いから別の会社でも使えそうだ」「この仮説は当たっていることが少ないので別の表現、別の角度からのアプローチがよさそうだ」などの成功要因・失敗要因が明確になり、成功要因はそのまま続け、失敗要因は改善していくことで成果の再現性も担保できるようになったと感じています。
余談ですがコンサル業界で仮説というとよくMECEみたいな話になりますが、私は個人的には嫌いです。理由はMECEを意識して仮説を立てて、今まで思いつかなかった決定的な仮説が出てきた、という経験が一度もないからです。というかMECEを意識して初めて決定的な仮説が出てくるのって、そもそもそれまでの仮説の立て方が悪すぎるんじゃないかと思ってしまうんですが…。